
パーキンソン病の進行期治療全体の見取り図は「パーキンソン病の薬が効きにくくなってきたら ― 進行期に検討する治療の選択肢」をご覧ください。
パーキンソン病の進行期に入り、薬の調整を尽くしてもウェアリングオフやジスキネジアがおさえにくくなってきたとき、次の選択肢のひとつとして「持続注入療法」があります。
飲み薬は服用のたびに血液中の薬の量が上がり下がりするため、進行期にはこの波が症状の変動に直結してしまいます。持続注入療法は、薬を一定のペースで24時間持続的に体に届けることで、この波をできるだけなくし、症状を安定させることを目指す治療です。ただし、後述するように、持続注入療法にも処置や準備が必要なものがあり、どちらの方法を選ぶかは患者さんの状態や希望によって異なります。
現在、日本で使用できる持続注入療法には大きく2つがあります。レボドパを腸へ持続的に注入する「レボドパカルビドパ持続経腸療法(LCIG)」と、皮下に持続的に注入する「ホスレボドパ・ホスカルビドパ持続皮下注療法(ヴィアレブ)」です。このコラムでは、この2つの治療についてご説明します。
レボドパカルビドパ持続経腸療法(LCIG)とは
LCIG(Levodopa-carbidopa continuous infusion gel therapy)は、レボドパをゲル状にした薬剤を、専用のポンプを使って腸(小腸)へ直接、持続的に注入する治療です。日本では2016年から保険適用されています。
投与の仕組みは、まず内視鏡を用いた胃瘻(いろう)造設術という小手術を行い、おなかに小さな穴をあけて管(チューブ)を通します。そのチューブを通じて、外付けのポンプから薬が一定のペースで腸へ送り込まれます。これにより、飲み薬では避けられなかった血中濃度の波をなくし、日中を通して安定したドパミン刺激を保てるようになります。
LCIGの特徴として、レボドパを直接腸から吸収させるため、食事の影響を受けにくく、安定した効果が得やすい点があります。ウェアリングオフの改善や、ジスキネジアの軽減が期待できます。
一方で、注意点もあります。胃瘻造設という処置が必要なため、手術への準備と一定期間の入院が必要です。また、ポンプを携帯する必要があること、チューブのトラブル(先端のずれ、閉塞、抜去など)が起こりうること、胃瘻周囲の皮膚トラブルのリスクがあることなども、事前に理解しておくべき点です。
ホスレボドパ・ホスカルビドパ持続皮下注療法(ヴィアレブ)とは
ヴィアレブ(一般名:ホスレボドパ・ホスカルビドパ水和物)は、レボドパの前駆体(体の中でレボドパに変換される物質)を皮下に持続投与する治療です。日本では2023年5月に薬価収載・発売された、比較的新しい選択肢です。
投与の仕組みは、皮膚の下(皮下)に細くて柔らかいカニューレ(管)を留置し、専用の輸液ポンプから24時間持続的に薬を注入するというものです。胃瘻の造設手術が不要で、針をおなかの皮下に留置するだけで始められます。
ヴィアレブの大きな利点は、手術が不要である点です。胃瘻手術という処置を必要としないため、手術リスクが心配な方や、消化器系の問題がある方でも検討しやすい選択肢です。また、食事の影響を受けにくく、安定した血中濃度を維持しやすいとされています。現在は入院を行わず外来での導入も行われるようになっています。
一方で、注意点もあります。注入部位の皮膚反応(発赤、硬結、感染など)が起こりうること、カニューレを定期的に交換する必要があること(通常24〜72時間ごと)、ポンプを常に携帯する必要があることなどです。
LCIGとヴィアレブ、どちらが向いているのか
2つの治療の大きな違いは、「手術が要るかどうか」と「薬の届け方」です。LCIGは胃瘻造設という処置が必要ですが、腸から直接薬を届けるため、レボドパの吸収が非常に安定します。ヴィアレブは手術不要ですが、皮下から薬を届けるため、チューブトラブルのリスクはLCIGとは異なるかたちで存在します。
どちらが向いているかは、患者さんの体の状態、生活スタイル、チューブや機器の扱いやすさへの希望、これまでの薬の量などを総合して判断します。一律に「どちらが優れている」とは言えず、専門医と十分に相談して決める必要があります。また当然のことながらDBSとも比較を行い、どの治療法が最適なのかを決めていくことになります。
パーキンソン病診療ガイドライン(2018年)では、DBSとLCIGは運動合併症への効果が期待できる治療として位置づけられています。ヴィアレブはその後に登場した新しい選択肢で、これらと比較した長期データは現在も蓄積されている段階です。
適応・費用・保険について
いずれの治療も、対象は「レボドパを含む既存の薬物療法で十分な効果が得られない進行期パーキンソン病」の患者さんです。レボドパへの反応性が保たれていること、認知機能が保たれていること、患者さん本人または介助者がポンプの操作を習得できることなどが、実施の前提となります。
費用については、いずれも保険適用があり、高額療養費制度の対象となります。また、パーキンソン病は指定難病であるため、ホーン&ヤール重症度3度以上・生活機能障害度2度以上の方は難病医療費助成制度の対象となり、自己負担がさらに軽減されます。薬剤費・ポンプ費用・管理費など詳細は、担当医や医療機関にご確認ください。
当院での対応について
当院院長は、アメリカでの約6年間のDBS研修を経て、帰国後は約15年間にわたりパーキンソン病のデバイス補助療法に関わってきました。この経験をもとに、進行期パーキンソン病の患者さんに対して、LCIGやヴィアレブをはじめとする持続注入療法の適応があるかどうかを、現在の症状や生活状況をもとに一緒に考えています。導入が必要と判断した場合は、専門施設と連携してサポートします。またヴィアレブにつきましては外来での導入を当院でも行う予定です。
「薬の効きが変わってきた」「持続注入療法について詳しく知りたい」「どの治療が自分に向いているか相談したい」といったことがあれば、どうぞお気軽にご相談ください。
※本コラムは、2026年7月12日時点で公開されている情報にもとづく一般的な医療情報です。記載した治療法の適応や効果、安全性には個人差があり、すべての方に当てはまるものではありません。実際の治療の選択は、症状やご事情を踏まえて医師が判断します。気になる症状がある場合は、自己判断せず、主治医や専門医にご相談ください。
最終更新日:2026年7月12日

おおはら脳神経クリニック
院長 大原信司
福岡市うまれ、九州大学医学部卒業。
日頃の診療においては①患者様の話をしっかりと聞くこと、②診察と説明に十分に時間をかけること、の2点を心がけています。
- 日本脳神経外科学会専門医
- 日本臨床神経生理学会専門医
- 日本定位・機能神経外科学会技術認定医
- 迷走神経刺激療法(VNS)資格認定医
- 定位頭蓋内脳波(SEEG)資格認定医
- バクロフェン髄注療法(ITB)資格認定医 など
- 日本脳神経外科学会
- 日本てんかん学会
- 日本定位・機能神経外科学会
- 日本臨床神経生理学会 など



