iPS細胞によるパーキンソン病治療「アムシェプリ」とは ― 何ができて、今はまだ何ができないのか|おおはら脳神経クリニック|福岡市博多区の脳神経外科|てんかん・パーキンソン病

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iPS細胞によるパーキンソン病治療「アムシェプリ」とは ― 何ができて、今はまだ何ができないのか

iPS細胞によるパーキンソン病治療「アムシェプリ」とは ― 何ができて、今はまだ何ができないのか|おおはら脳神経クリニック|福岡市博多区の脳神経外科|てんかん・パーキンソン病

パーキンソン病のiPS細胞治療アムシェプリの解説記事

iPS細胞による再生医療等製品「アムシェプリ」とは ― パーキンソン病治療で何ができて、今はまだ何ができないのか

2026年、パーキンソン病の治療に関する大きなニュースが報じられました。iPS細胞からつくった細胞を脳に移植する再生医療等製品「アムシェプリ」が、世界で初めて承認・保険適用されたのです。「パーキンソン病が治る薬ができた」と期待された方も多いかもしれません。

このコラムでは、アムシェプリがどのようなもので、それを用いた治療で何が期待でき、そして現時点では何ができないのかを、できるだけ正確に、冷静にお伝えします。過度な期待でも、不要な不安でもなく、正しい理解の助けになれば幸いです。

アムシェプリとはどのようなものか

パーキンソン病は、脳の中でドパミンという神経伝達物質をつくる神経細胞が少しずつ失われていくことで、手のふるえや動作の遅さ、筋肉のこわばりといった症状が現れる病気です。

アムシェプリ(一般名:ラグネプロセル)は、iPS細胞からつくり出した「ドパミン神経のもとになる細胞(ドパミン神経前駆細胞)」そのものを指す再生医療等製品です。これを、脳の被殻(ひかく)と呼ばれる場所に手術で移植することで、失われたドパミン神経の働きを補おうという発想にもとづいた治療が行われます。

使われるiPS細胞は、患者さん本人ではなく、健康なドナーの細胞からつくられた「他家(たか)iPS細胞」です。あらかじめ細胞を準備しておけるため、患者さんごとに細胞を一からつくり直す必要がないという利点があります。一方で、他人の細胞を移植するため、拒絶反応を抑える薬(免疫抑制薬)が一定期間必要になります。

治療は、定位脳手術という精密な脳外科手術で行われます。頭蓋骨に小さな穴をあけ、左右の被殻に細胞を少しずつ分けて移植します。

機能神経外科医の視点から

ここで、当院の立場から少し補足します。当院院長は、これまで福岡山王病院や九州大学病院において、パーキンソン病に対する脳深部刺激療法(DBS)をはじめとする定位脳手術に携わってきました。定位・機能神経外科を専門とする立場から見ると、アムシェプリで用いられる「定位脳手術により脳の深部(被殻)へ正確に到達する」という手技そのものは、DBSなどで長年積み重ねられてきた技術の延長線上にあります。

その上でお伝えしたいのは、アムシェプリを用いた治療が画期的なのは「手術の方法」ではなく、「何を脳に届けるか」という中身の部分だという点です。これまでの手術が電気刺激の装置を脳に留置して症状をやわらげるものだったのに対し、アムシェプリでは、失われた神経細胞のもとになる細胞そのものを補おうとします。これは考え方の異なる治療です。手術手技として確立された土台の上に、再生医療という新しい中身が乗った——それが、この治療の位置づけです。

なお、ここまで触れてきたDBS(脳深部刺激療法)は、アムシェプリのような細胞移植とは異なり、すでに広く行われ実績の積み重ねがある外科治療です。進行期の治療を考えるうえでは、新しい細胞移植だけでなく、こうした確立した選択肢もあわせて知っておいていただくことも大切です。

「世界初」の意味と、承認の位置づけ

アムシェプリは、住友ファーマによって2026年3月6日に承認されました。iPS細胞由来の再生・細胞医薬品としては、世界で初めての製品です。これは、2006年に京都大学の山中伸弥教授がiPS細胞を生み出してからおよそ20年を経て、ようやく実際の医療として使われる段階に入ったことを意味する、医療史に残る出来事といえます。

ただし、ここで正確に知っておいていただきたいことがあります。この承認は「条件及び期限付承認」という特別な制度にもとづくものです。これは、再生医療等製品について、有効性が「推定」できる段階で、安全性を確認したうえで、7年以内にあらためて有効性を検証することを条件に、早期に承認する仕組みです。つまり、効果と安全性が完全に確立しきった段階での承認ではなく、これから市販後の試験でデータを積み上げていく前提の承認なのです。

誰が受けられるのか ― 対象は限られています

アムシェプリの承認上の対象は、「レボドパ含有製剤を含む既存の薬物療法で十分な効果が得られないパーキンソン病患者の運動症状の改善」とされています。

ここが非常に大切な点です。アムシェプリを用いた治療は、パーキンソン病と診断されたすべての方が受けられるものではありません。診断されたばかりの方は、これまで通りレボドパなどの飲み薬による治療から始めるという位置づけは変わっていません。この治療が検討されうるのは、薬の調整を行ってもウェアリングオフ(薬の効果が切れる現象)などが改善しない、進行期の患者さんが対象です。

京都大学の治験でわかったこと、わからなかったこと

アムシェプリの承認は、京都大学医学部附属病院で行われた医師主導治験の結果(2025年にNature誌に掲載)にもとづいています。

この治験では、移植を受けた患者さんで運動症状の平均的な改善や、脳内でのドパミン産生の増加が報告されました。重篤な有害事象は認められなかったとされています。これは大きな前進です。

一方で、誠実にお伝えすべき点もあります。この治験は7例という、ごく少人数を対象としたものでした。また、移植後2年の時点でも、患者さんが服用しているパーキンソン病の薬の量は平均的には大きく変わっていませんでした。つまり「この治療を受ければ薬をやめられる・減らせる」と単純に言えるわけではありません。生活の質の指標が平均的には大きく変わらなかったことや、項目によっては改善が見られなかったことも報告されています。

現段階でのアムシェプリを用いた治療は、「薬に置き換わるもの」というより、「薬による治療を続けながら、症状全体をより良く管理していくための新しい選択肢のひとつ」と理解するのが、現時点では正確です。

費用はどのくらいか

アムシェプリの薬価(薬剤そのものの公定価格)は、2026年5月に1人あたり5,530万6,737円と決定され、5月20日から保険が適用されています。非常に高額に見える金額ですが、これは薬剤費のみで、別途、入院費や手術費、術前後の検査費、免疫抑制薬の費用などが加わります。

ただし、保険が適用されるため、患者さんご自身の窓口負担には高額療養費制度が適用されます。最終的な自己負担額は、加入されている健康保険や所得の区分によって異なりますので、詳しくは加入先の健康保険にご確認ください。

加えて、パーキンソン病は国の指定難病であり、一定の重症度などの基準を満たす場合には、難病医療費助成制度の対象となることがあります。この制度が利用できる場合、自己負担の上限がさらに抑えられることがあります。ただし、助成を受けるには重症度や所得などの要件があり、すべての方が対象となるわけではありません。対象となるかどうかや申請の方法については、お住まいの自治体の窓口や主治医にご相談ください。

今はまだ、どこでも受けられる治療ではありません

ここまでお読みになって、「では、どこで受けられるのか」と思われたかもしれません。

しかし、現時点では、アムシェプリを用いた治療は限られた認定施設でしか行われていません。販売が本格的に始まるのは2026年秋の終盤の見込みで、当面はおよそ7つの施設で、合計35人ほどの患者さんを対象とした市販後の臨床試験として行われる段階です。つまり、今はまだ、ごく限られた患者さんにのみ、特定の医療機関で提供される治療です。今後、市販後の試験を通じて有効性と安全性が確かめられ、実施できる施設が広がっていくことが期待されます。

パーキンソン病でお悩みの方へ

アムシェプリを用いた治療は大きな希望を感じさせるものですが、今すぐ多くの方が受けられるものではありません。一方で、パーキンソン病の治療は、飲み薬の調整から、進行期に対するさまざまな治療まで、現在すでに選択肢が広がっています。「薬が効きにくくなってきた」と感じておられる方にも、検討できる治療は複数あります。

大切なのは、新しい治療の情報に振り回されすぎず、今のご自身の状態に合った治療を、専門医とともに考えていくことです。当院では、パーキンソン病をはじめとする運動の病気の診療に力を入れています。症状や治療について気になることがあれば、どうぞご相談ください。


※本コラムは、住友ファーマの公開情報、中央社会保険医療協議会・厚生労働省の資料、および京都大学の治験報告(Nature, 2025)など、2026年6月時点で公開されている情報にもとづく一般的な医療情報です。特定の治療を推奨・保証するものではなく、効果や安全性には個人差があります。アムシェプリは条件及び期限付承認の段階にあり、長期的な有効性・安全性は今後の市販後試験で評価されていきます。実際の治療の判断は、症状やご事情を踏まえて医師が行います。


※本コラムは、住友ファーマの公開情報、中央社会保険医療協議会・厚生労働省の資料、および京都大学の治験報告(Nature, 2025)など、2026年6月時点で公開されている情報にもとづく一般的な医療情報です。特定の治療を推奨・保証するものではなく、効果や安全性には個人差があります。アムシェプリは条件及び期限付承認の段階にあり、長期的な有効性・安全性は今後の市販後試験で評価されていきます。実際の治療の判断は、症状やご事情を踏まえて医師が行います。

監修・執筆

最終更新日:2026年6月22日

おおはら脳神経クリニック 院長 大原信司(日本脳神経外科学会専門医)

おおはら脳神経クリニック
院長 大原信司

福岡市うまれ、九州大学医学部卒業。

日頃の診療においては①患者様の話をしっかりと聞くこと、②診察と説明に十分に時間をかけること、の2点を心がけています。

資格
  • 日本脳神経外科学会専門医
  • 日本臨床神経生理学会専門医
  • 日本定位・機能神経外科学会技術認定医
  • 迷走神経刺激療法(VNS)資格認定医
  • 定位頭蓋内脳波(SEEG)資格認定医
  • バクロフェン髄注療法(ITB)資格認定医 など
所属学会
  • 日本脳神経外科学会
  • 日本てんかん学会
  • 日本定位・機能神経外科学会
  • 日本臨床神経生理学会 など