
「てんかんと診断されたら、もう車は運転できないのか」――てんかん患者さんとご家族から、最も多く寄せられる疑問のひとつです。仕事や生活に車が欠かせない方にとって、これは非常に切実な問題です。
結論から言うと、てんかんと診断されても、一定の条件を満たせば自動車を運転することができます。また、2002年の道路交通法改正によって、てんかんは「診断があるだけで免許を取得できない」という絶対的欠格事由から、「運転への支障の有無で判断する」相対的欠格事由に変わっています。このコラムでは、てんかんと運転免許の関係を、法律・医学の両面から正確にお伝えします。
道路交通法の規定 ― 運転できる条件とは
道路交通法施行令(令第33条の2の3第2項第1号)では、てんかんのある方が運転免許を取得・保持できる場合として、次の条件が定められています。薬を服用しているかどうかは問われません。
| 区分 | 発作の状況 | 必要な条件 | 対象免許 |
|---|---|---|---|
| ア | 発作が過去5年以上起こっていない | 医師が「今後発作が起こるおそれがない」と診断 | 普通免許など |
| イ | 発作が過去2年以内に起こっていない | 医師が「今後しばらくの間発作が起こるおそれはない」と診断 | 普通免許など |
| ウ | 発作はあるが、意識障害・運動障害を伴わない発作(単純部分発作)のみ | 1年間の経過観察後、今後症状が悪化するおそれがないと認められる | 普通免許など |
| エ | 発作はあるが、睡眠中のみに限られる | 2年間の経過観察後、今後症状が悪化するおそれがないと認められる | 普通免許など |
一般的によく該当するのは「イ」の条件です。抗てんかん薬を服用していても発作がコントロールできていれば認められます。また「ウ」「エ」のように、発作の種類や時間帯によっては発作がある状態でも運転が認められる場合があります。自分がどの条件に当てはまるかは、主治医に相談してください。
なお、大型免許・第2種免許については条件がより厳しく、投薬なしで5年間発作がなく、今後も再発のおそれがない場合以外は適性がないとされています。また、いずれの場合も最終的な判断は公安委員会が行います。
医師の診断書の役割
てんかんと運転免許の問題で重要なのは、最終的な判断は公安委員会(警察)が行うという点です。医師が「運転して良い」と許可するものではなく、医師は現在の発作のコントロール状況を診断書として公安委員会に報告し、公安委員会がその診断書をもとに免許の可否を判断します。
免許の取得・更新時には、一定の病気等に関する質問票への記入が求められます。ここで事実と異なる記載をした場合、1年以下の懲役または30万円以下の罰金が科される可能性があります。必ず正確に申告してください。
また、医師の勧告に従わずに運転を続けている事実が判明した場合、医師は公安委員会に届け出ることができるとされています。
発作が起きた場合・再発した場合はどうなるのか
運転できる状態にあったが、その後発作が再発した場合には、速やかに運転をやめ、主治医に連絡する必要があります。
ここでよく患者さんから聞かれるのが「発作が起きたら、すぐに公安委員会に届け出なければならないのか」という疑問です。結論から言うと、発作が起きた際に患者さんが公安委員会にすぐ届け出ることは、法律上の義務としては明文化されていません。ただし、次の免許の更新・申請時には質問票に発作があったことを正確に記載する義務があります。ここで虚偽の記載をした場合、1年以下の懲役または30万円以下の罰金が科される可能性があります。
また、医師側については、2014年の道路交通法改正で、医師が診察の結果を公安委員会に届け出ることができると規定されています。これは義務ではなく任意の届け出ですが、医師の勧告に従わずに運転を続けている場合には、医師は公安委員会に届け出ることができます。日本てんかん学会のガイドラインでは、患者さんが運転を控えるよう説得に努めることが医師に求められています。
発作後の実際の対応としては、主治医に発作の状況を報告し、運転の自粛について相談することが重要です。再発から2年以上発作がない状態になれば、再び運転できる可能性があります。免許停止後3年以内に医師の診断書を含む必要な手続きをとると、技能試験・学科試験が免除され、適性試験に合格すれば免許の再取得ができます。優良運転の経歴も引き継がれます。
抗てんかん薬と運転 ― 2026年の添付文書改訂
抗てんかん薬の中には、眠気・注意力低下などの副作用があるものがあり、これが運転に影響する可能性があります。従来、一部の抗てんかん薬の添付文書には「自動車の運転等危険を伴う機械の操作に注意させること」や、服用中は運転を禁止するような記載がありました。
2026年3月17日、厚生労働省は抗てんかん薬5成分(カルバマゼピン・バルプロ酸ナトリウム・ラモトリギン・ラコサミド・レベチラセタム)の添付文書を改訂しました。これは日本てんかん学会からの要望書を受けて検討されたものです。従来の添付文書には「本剤投与中の患者には自動車の運転等、危険を伴う機械の操作に従事させないよう注意すること」という一律の記載がありましたが、今回の改訂により、日本てんかん学会の留意事項に基づいて医師が個々の患者さんの状態を評価した上で、運転の適否を個別に判断することが可能となりました。投与初期は運転に影響を与える可能性があり特に注意が必要ですが、継続投与では影響が軽減する可能性が示されています。
薬を服用していても、発作がコントロールされており、副作用による運転への影響がない場合は、運転が認められる方向にあります。ただし、新しく薬を始めた時期や用量を変更した時期は、副作用の出方を確認するまで慎重な対応が必要です。現在服用している薬と運転の関係については、必ず主治医に確認してください。
「運転していいか分からない」と感じたら
てんかんと運転の問題は、法律・医学・生活の3つが複雑に絡み合います。「自分は運転して良い状態なのか」「発作が再発したらどうすれば良いか」「薬を飲んでいても運転できるのか」――こうした疑問は、主治医に率直に相談することが最も重要です。
当院では、てんかんの発作コントロールの状況を評価し、運転に関する診断書の作成や相談にも対応しています。「運転できる状態かどうか判断してほしい」「他院でてんかんと言われたが運転の可否について相談したい」という方も、どうぞお気軽にご相談ください。
※本コラムは、2026年8月時点で公開されている情報にもとづく一般的な医療情報です。道路交通法の運用基準は改正されることがあります。実際の運転可否の判断は公安委員会が行い、医師の診断書が参考にされます。必ず主治医および所轄の警察署・運転免許センターにご確認ください。
最終更新日:2026年8月11日

おおはら脳神経クリニック
院長 大原信司
福岡市うまれ、九州大学医学部卒業。
日頃の診療においては①患者様の話をしっかりと聞くこと、②診察と説明に十分に時間をかけること、の2点を心がけています。
- 日本脳神経外科学会専門医
- 日本臨床神経生理学会専門医
- 日本定位・機能神経外科学会技術認定医
- 迷走神経刺激療法(VNS)資格認定医
- 定位頭蓋内脳波(SEEG)資格認定医
- バクロフェン髄注療法(ITB)資格認定医 など
- 日本脳神経外科学会
- 日本てんかん学会
- 日本定位・機能神経外科学会
- 日本臨床神経生理学会 など



