ボツリヌス治療とは ― 適応・効果・ボトックスとゼオマインの違い|おおはら脳神経クリニック|福岡市博多区の脳神経外科|てんかん・パーキンソン病

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ボツリヌス治療とは ― 適応・効果・ボトックスとゼオマインの違い

ボツリヌス治療とは ― 適応・効果・ボトックスとゼオマインの違い|おおはら脳神経クリニック|福岡市博多区の脳神経外科|てんかん・パーキンソン病

「ボツリヌス治療」という言葉を聞いたことがあっても、どのような治療なのか、どんな病気に使えるのか、費用はどのくらいかかるのか、詳しくは知らないという方も多いのではないでしょうか。

このコラムでは、ボツリヌス治療の仕組み・対象となる病気・効果の持続期間・費用・製剤の種類について、脳神経外科の専門医の立場から分かりやすくお伝えします。

ボツリヌス治療とはどのような治療か

ボツリヌス治療は、ボツリヌス菌が産生するA型ボツリヌス毒素を、症状が出ている筋肉に直接注射する治療です。ボツリヌス毒素は、神経と筋肉の接合部(神経筋接合部)に作用し、神経伝達物質(アセチルコリン)の放出を一時的に抑制することで、筋肉の過剰な収縮をやわらげます。

「毒素」という言葉から怖いイメージを持たれる方もいらっしゃいますが、治療に用いる量は非常に少量で、局所的に作用するため全身に影響が及ぶことはほとんどありません。1970年代から眼科領域で使用が始まり、現在では世界中で広く行われている確立した治療法です。

どんな病気に使えるのか ― 保険適用の対象

ボツリヌス治療は、筋肉の過剰な収縮が原因となるさまざまな疾患に保険適用で使用できます。当院で対応している主な疾患は次の通りです。

眼瞼けいれん(まぶたが勝手に閉じてしまう)、顔面けいれん(顔の半分がぴくぴくする)、痙性斜頚(首が傾いたり横を向いてしまう)、上肢痙縮(脳卒中・頭部外傷後の腕・手のつっぱり)、下肢痙縮(脳卒中・頭部外傷後の足のつっぱり)、慢性流涎(よだれが多い・コントロールできない)です。これらはいずれも保険適用で治療を受けることができますが、薬剤の種類により使用できる疾患が異なります(後述)。

効果と持続期間

ボツリヌス治療の効果は、注射後数日〜2週間程度で現れ始め、通常3〜4か月程度持続します。効果が薄れてきたタイミングで再注射を行います。定期的な注射を継続することで、症状を安定してコントロールできるようになります。

注射を繰り返すことで効果が落ちてくることは通常はあまりなく、長期にわたって有効な治療です。ただし後述するように、製剤によって中和抗体が産生されやすいものとそうでないものがあり、長期投与においてはこの点が重要になります。

製剤の種類 ― ボトックスとゼオマイン

日本でボツリヌス治療に使用できるA型ボツリヌス毒素製剤として、現在主に2種類があります。ボトックス(onabotulinumtoxinA)とゼオマイン(incobotulinumtoxinA)です。

ボトックスは1990年代から日本で使用されており、最も長い実績を持つ製剤です。眼瞼けいれん・顔面けいれん・痙性斜頚・上下肢痙縮など幅広い疾患に保険適用があります。有効成分の神経毒素に加えて、複合タンパク質(ヘマグルチニンなど)を含んでいます。

ゼオマインは2020年に日本で承認された製剤で、ドイツのMerz社が開発し、帝人ファーマが販売しています。最大の特徴は、複合タンパク質を取り除き、神経毒素のみを高純度に精製した「ピュアトキシン」である点です。2026年6月には新たに眼瞼けいれんと痙性斜頚への保険適用が追加され、上下肢痙縮・慢性流涎とあわせて幅広い疾患に使用できるようになりました。なお顔面けいれんへの保険適用は現時点ではありません。

ボトックスとゼオマインの比較 ― どちらを選ぶか

ゼオマインとボトックスを同じ用量(1:1)で直接比較した無作為化二重盲検の臨床試験が、痙性斜頚(Benecke et al., 2005)と眼瞼けいれん(Roggenkämper et al., 2006)でそれぞれ行われており、いずれもゼオマインの効果はボトックスに劣らない(非劣性)こと、また安全性もボトックスと同程度であることが示されています。

両製剤の最も重要な違いは、複合タンパク質の有無です。ボツリヌス治療を長期・繰り返し行うと、複合タンパク質に対する中和抗体が産生されることがあります。中和抗体が産生されると、製剤の効果が徐々に減弱することがあります。ゼオマインは複合タンパク質を含まないため、理論上この中和抗体産生リスクが低く、長期投与においても安定した効果が期待できます。

また薬価の点では、ゼオマインはボトックスの約60%の薬価であり(100単位比較:32,477円 vs 55,420円)、患者さんの自己負担の軽減にもつながります。

こうした背景から、長期的なボツリヌス治療が必要な方では、ゼオマインが選択肢のひとつになります。

ただし、顔面けいれんに対してはゼオマインの保険適用がないため、現時点ではボトックスを使用します。また、これまでボトックスで安定した効果が得られている方が無理に切り替える必要はなく、担当医と相談の上で判断することが重要です。

費用(薬価と自己負担の目安)

ボツリヌス治療は保険適用で行えます。費用は使用する製剤の種類と量によって異なります。下記の薬価は、2026年3月5日に告示され、同年4月1日から適用されている薬価基準(令和8年度薬価改定)によるものです。

ボトックス(onabotulinumtoxinA・GSK)の薬価は、50単位が31,531円/瓶、100単位が55,420円/瓶です。ゼオマイン(incobotulinumtoxinA・帝人ファーマ)の薬価は、50単位が16,660円/瓶、100単位が32,477円/瓶、200単位が63,484円/瓶です。

3割負担の場合の自己負担の目安(薬剤費のみ・診察料・処置料は別途)は、眼瞼けいれん・顔面けいれんの場合が約10,000円程度、痙性斜頚の場合が約20,000〜30,000円程度、四肢痙縮の場合が約20,000〜100,000円程度です。重度障害者医療証等をお持ちの方は自己負担が軽減されます。

当院でのボツリヌス治療について

当院では、眼瞼けいれん・顔面けいれん・痙性斜頚・四肢痙縮に対してボツリヌス治療を行っています。痙性斜頚や四肢痙縮への注射では、必要に応じてエコー(超音波)を用いて筋肉を画像で確認しながら正確な部位に注射を行っています。また通院が困難な方に対しては訪問によるボツリヌス治療も行っています。

「ボツリヌス治療について相談したい」「ゼオマインへの変更を検討したい」「他院でボツリヌス治療を受けていたが引き続き治療を受けたい」という方も、どうぞお気軽にご相談ください。


※本コラムは、2026年10月時点で公開されている情報にもとづく一般的な医療情報です。薬価は改定されることがあります。実際の治療の選択は、症状やご事情を踏まえて医師が判断します。気になる症状がある場合は、自己判断せず、専門医にご相談ください。

監修・執筆

最終更新日:2026年10月12日

おおはら脳神経クリニック 院長 大原信司(日本脳神経外科学会専門医)

おおはら脳神経クリニック
院長 大原信司

福岡市うまれ、九州大学医学部卒業。

日頃の診療においては①患者様の話をしっかりと聞くこと、②診察と説明に十分に時間をかけること、の2点を心がけています。

資格
  • 日本脳神経外科学会専門医
  • 日本臨床神経生理学会専門医
  • 日本定位・機能神経外科学会技術認定医
  • 迷走神経刺激療法(VNS)資格認定医
  • 定位頭蓋内脳波(SEEG)資格認定医
  • バクロフェン髄注療法(ITB)資格認定医 など
所属学会
  • 日本脳神経外科学会
  • 日本てんかん学会
  • 日本定位・機能神経外科学会
  • 日本臨床神経生理学会 など