抗アミロイド抗体薬(レカネマブ・ドナネマブ)とは ― 対象・治療の流れ・注意点|おおはら脳神経クリニック|福岡市博多区の脳神経外科|てんかん・パーキンソン病

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抗アミロイド抗体薬(レカネマブ・ドナネマブ)とは ― 対象・治療の流れ・注意点

抗アミロイド抗体薬(レカネマブ・ドナネマブ)とは ― 対象・治療の流れ・注意点|おおはら脳神経クリニック|福岡市博多区の脳神経外科|てんかん・パーキンソン病

認知症のコラム

もの忘れが「年のせい」の範囲か、それとも注意が必要な変化かの見分け方については「『年のせい』と『認知症』の境界 ― 物忘れとMCI(軽度認知障害)の違い」もあわせてご覧ください。

「アルツハイマー病の新しい薬があると聞いたが、自分や家族も使えるのだろうか」――こうしたご相談をいただく機会が増えています。2023年にレカネマブ(商品名:レケンビ)、2024年にドナネマブ(商品名:ケサンラ)が日本で承認され、アルツハイマー病の進行を緩やかにすることを目的とした治療が行われるようになりました。2026年9月には、レカネマブについて、自己投与が可能な皮下注射の製剤(レケンビ皮下注250mgペン)も承認されています。

このコラムでは、2つの抗アミロイド抗体薬(レカネマブ・ドナネマブ)とはどのような薬か、どのような方が対象になるのか、治療の流れと副作用、そして当院での対応(治療の開始は他の医療機関で行い、当院では継続投与を担当します)について、一般的な医療情報としてお伝えします。

抗アミロイド抗体薬(レカネマブ・ドナネマブ)とはどんな薬か

アルツハイマー病の脳では、アミロイドβというたんぱく質が異常に蓄積していくことが知られています。抗アミロイド抗体薬は、このアミロイドβに結合する抗体を点滴で投与することで、アルツハイマー病の病気そのものに働きかけることを目的とした薬です。従来のアルツハイマー型認知症の薬が症状を和らげる薬だったのに対し、病気の進行を抑えることをねらった薬という点が大きな違いです。

日本では現在、2023年に承認されたレカネマブ(商品名:レケンビ)と、2024年に承認されたドナネマブ(商品名:ケサンラ)の2剤が使えます。2剤は、標的とするアミロイドβの形が少し異なり、投与の間隔や期間の考え方も違います。

どちらの薬も、日本での効能・効果は「アルツハイマー病による軽度認知障害および軽度の認知症の進行抑制」です。つまり、進行を緩やかにすることを目的とした薬であり、認知症を治す薬ではありません。すでに失われた記憶や機能を元に戻す薬でもなく、効果の現れ方には個人差があります。

また、もの忘れや認知症の原因はアルツハイマー病だけではありません。レビー小体型認知症や血管性認知症など、ほかの原因による場合は、これらの薬の対象にはなりません。

治療の対象となる方

これらの薬は、もの忘れがある方すべてが使えるわけではありません。国の「最適使用推進ガイドライン」で、投与の対象や条件が細かく定められています。主なポイントは次のとおりです。

  • 認知機能低下の原因がアルツハイマー病であることを、アミロイドPET検査または脳脊髄液検査で確認できていること
  • 軽度認知障害(MCI)または軽度の認知症の段階であること(MMSE、臨床認知症尺度(CDR)などの評価で確認します)
  • 頭部MRI検査で、微小出血を含む出血や浮腫などの所見がなく、治療の安全性に影響する異常がないこと

認知症が進んで中等度以降の段階になると、これらの薬の効果は確立していないため、対象になりません。あわせて、持病や服用中のお薬によっては、使用できない、または慎重な検討が必要になる場合があります。

このように「軽度の段階」が条件になっているため、早めに受診して現在の状態を評価しておくことが、治療の選択肢を残すことにつながります。

治療の流れ

2剤とも点滴で投与する薬ですが、投与の間隔や、治療をいつまで続けるかの考え方が異なります。

項目 レカネマブ(レケンビ) ドナネマブ(ケサンラ)
投与間隔 2週間に1回 4週間に1回
1回の点滴時間 約1時間 少なくとも30分
投与量 体重に応じた量を継続 初回350mg、2回目700mg、3回目1050mg、4回目以降1400mg
投与の終了 原則18か月まで アミロイドPET検査でアミロイドβの除去が確認された時点で完了。確認されない場合も、原則18か月まで

治療を始める前には、問診、認知機能検査(神経心理検査)、血液検査、頭部MRI検査、アミロイドPET検査または脳脊髄液検査などを、数回に分けて受けていただきます。

投与が始まったあとも、6か月に1回を目安に、認知機能検査や症状の評価を行います。経過から効果が期待できないと判断された場合や、認知症が中等度以降に進んだ場合は、投与を中止します。

ドナネマブでは、投与開始から12か月を目安にアミロイドPET検査を行い、アミロイドβの除去が確認されれば、その時点で投与を完了します。除去が確認されない場合は、検査結果や治療の経過をふまえて投与を続けるかを判断し、原則として最長18か月で完了します。レカネマブでは、18か月を超えて続けるかどうかを、その時点の状態や副作用の出方をふまえて、医師が改めて判断します。

これらの薬は、治療を行える医療機関や医師の条件が国のガイドラインで定められており、「初回投与から6か月まで」と「6か月以降」で、求められる体制が分けられています。治療の開始と、初回投与から6か月までの投与は、MRIの読影体制や認知症疾患医療センターとの連携などの条件を満たした医療機関で行います。6か月以降は、条件を満たした別の医療機関で投与を続けることもできます。この場合も、定期的な評価や、投与を完了・継続するかの判断は、治療を開始した医療機関と連携して行います。

2つの薬の作用の違いと、長期的な使い方の考え方

アミロイドβは、小さな分子から、可溶性の大きな集まり(プロトフィブリル)、不溶性の線維、そして最終的にアミロイドプラークへと、形を変えながら集まっていきます。プロトフィブリルは、プラークができる手前の段階にあたる、水に溶けた状態の大きな集まりです。プラークの材料になるだけでなく、神経細胞どうしの情報のやりとりを直接傷つけるなど、プラークよりも神経への毒性が強い可能性があると考えられています。一方のプラークは、不溶性となって脳に沈着したもので、アミロイドPET検査で目に見える形で確認できます。つまり、プロトフィブリルは「プラークの手前にある、毒性が強いと考えられている段階」、プラークは「蓄積した結果として残った塊」という関係にあります。ただし、実際の形成過程は、ここで説明したほど単純な一本道ではないと考えられています。2つの薬は、この過程のどの段階に結合するかが異なります。

項目 レカネマブ(レケンビ) ドナネマブ(ケサンラ)
主な標的 プロトフィブリルに強く結合し、プラークにも結合する 主にプラークに沈着した、形の変わったアミロイドβ(N3pG)に結合する
投与終了の考え方 継続して投与する設計。日本では原則18か月までとされ、超える場合は慎重に判断する アミロイドPET検査でプラークの除去が確認された時点で完了する
長期の使用で議論されている点 投与を中止すると、血液で測る病気の指標が治療前の方向に戻るとの報告があり、継続の意義が検討されている。18か月を超える投与の有効性は、確立の途上である 投与完了後の長期の経過については、データの蓄積が進んでいる段階である

アミロイドPET検査は、主に線維化して蓄積したアミロイドβ(プラーク)を反映する検査で、プロトフィブリルを直接測るものではありません。プロトフィブリルを測る、広く認められた検査法は、現在のところありません。ドナネマブは、PET検査で除去を確認できるプラークを標的にしているため、「除去を確認して終了する」という使い方がしやすい薬です。一方、レカネマブは、PET検査では見えないプロトフィブリルにも作用するため、プラークが減ったあとも治療を続ける意義があるのではないか、という議論があります。

この議論の背景には、アルツハイマー病は、プラークを取り除いたあとも、新しいアミロイドβが作られ続ける病気だという考え方があります。レカネマブの臨床試験(Study 201)では、18か月の治療のあとに、9〜59か月(平均約2年)の無投与期間をおいた方のデータがあります。製造販売元が2024年の国際学会(AAIC)で報告した内容では、この期間、臨床症状の評価(CDR-SB)でみたプラセボ群との差は保たれたものの、悪化の速さはプラセボ群と同程度に戻りました。また、血液で測る指標(アミロイドβ42/40比、p-tau、GFAPなど)は、治療前の方向に戻っていったとされています。血液の指標の変化は、症状の悪化の速さとは別のものです。

ただし、これらの報告は、製造販売元による追加の解析やモデル解析にもとづくもので、「継続すれば症状の面でさらに良い結果が得られる」ことが確かめられたわけではありません。2つの薬は、別々の臨床試験で、対象の条件も異なる集団で評価されており、効果の大きさや副作用の頻度を単純に比べることはできません。どちらの薬が優れているとは言えず、標的の違いが長期の経過にどう影響するかは、今後の研究で明らかになっていく課題です。

実際の薬の選び方は、投与の間隔、通院や検査の負担、ARIAのリスク、治療を終える見通し、費用などを総合して、医師と相談して決めます。

注意すべき副作用 ― ARIAとMRIによる確認

これらの薬で特に注意が必要な副作用が、ARIA(アミロイド関連画像異常)です。MRI検査で見つかる脳の変化で、脳の一部にむくみ(浮腫)が出るもの(ARIA-E)と、小さな出血や、脳の表面への微量な出血の跡がみられるもの(ARIA-H)があります。多くは症状がなく、MRI検査で初めて見つかりますが、一部の方で頭痛、意識の混乱、ふらつき、視覚の異常などの症状が出ることがあります。ApoE ε4という遺伝子型をもつ方では、ARIAが起こりやすいことが知られています。

そのため治療中は、決められた時期にMRI検査を行って確認します。レカネマブでは、5回目、7回目、14回目の投与前に、以降は6か月に1回、MRI検査を行います。2026年6月の添付文書の改訂で、3回目の投与前にもMRI検査を行うことが望ましいとされ、とくにARIAの発現に注意が必要な方では、実施を考慮するとされました。ドナネマブでは、2回目、3回目、4回目(増量前)、7回目の投与前に、以降は6か月に1回、MRI検査を行います。ARIAが見つかった場合は、画像所見の程度や症状の有無に応じて、投与を続ける、一時的に中断する、中止するといった判断をします。

このほか、点滴中や投与後に、発熱や悪寒などの投与に伴う反応が出ることがあります。投与期間にかかわらず、いつもと違う頭痛、意識の混乱、ふらつき、見え方の異常などを感じた場合は、次の予約を待たずに、治療を受けている医療機関へご連絡ください。ARIAが疑われる場合は、速やかに診察を行い、MRI検査で確認します。

レカネマブの皮下注射製剤(2026年9月承認)

2026年9月16日、レカネマブの皮下注射製剤「レケンビ皮下注250mgペン」が日本で承認されました。皮膚の下に注射するオートインジェクター(自己注射用のペン型の製剤)で、1回に2本(合計500mg)を週1回投与します。製造販売元の発表では、1本あたりの投与時間は約15秒とされています。点滴製剤との違いは次のとおりです。

項目 点滴製剤 皮下注ペン
投与間隔 2週間に1回 週1回(1回2本)
投与の場所 医療機関 在宅での自己投与が可能(条件あり)
投与にかかる時間 約1時間 1本あたり約15秒(1回2本)
ARIA確認のMRI検査 必要 点滴と同様に必要

在宅での自己投与には、条件があります。

  • 投与の開始は、医療機関で、医師が行うか、医師の直接の監督のもとで行うこと
  • 自己投与を始める前に、十分な教育訓練を行い、ご本人またはご家族・介護者がリスクと対処法を理解し、確実に投与できることを確認すること
  • 自己投与は、医師の管理・指導のもとで行うこと

さらに、在宅での自己投与が実際に可能になるのは、承認後、原則として60日以内に中央社会保険医療協議会で審議され、国が定める「厚生労働大臣が定める保険医が投与できる注射薬」のリストに掲載されてからとされています。承認から間もないため、在宅での自己投与を始められる時期は、今後の手続きの状況によって変わります。

皮下注製剤になっても、投与の対象となる方の条件や、ARIAのためのMRI検査が必要であることは、点滴製剤と変わりません。通院の負担が軽くなる一方で、自己管理を担うご本人やご家族の負担や、MRI検査のための通院は引き続き必要になる点も、治療を選ぶ際に考えておく必要があります。

当院での抗アミロイド抗体薬の治療について

当院では、抗アミロイド抗体薬(レカネマブ・ドナネマブ)による治療の開始(導入)は行っていません。治療の開始は、国のガイドラインで定められた施設や医師の要件を満たす医療機関で行われます。導入をご希望の方は、そうした医療機関へご紹介します。

一方、他の医療機関で治療を開始され、初回投与から6か月以降となった方の継続投与は、どちらの薬でも、導入施設と連携して当院で行うことができます。ARIAを確認するためのMRI検査は、当院にMRI設備がないため、導入施設や、当院が連携する近隣の医療機関と調整して、決められた時期に受けていただきます。レカネマブの皮下注製剤の在宅自己注射の指導については、対応を検討しています。

「自分や家族は治療の対象になるのだろうか」「もの忘れの原因を一度きちんと調べたい」という方は、まず現在の状態の評価からご相談ください。当院では、問診と認知機能検査に加えて、頭部CT検査を院内で行い、慢性硬膜下血腫や正常圧水頭症など、治療によって改善が見込める病気が隠れていないかも確認します。必要に応じて、さらに詳しい検査や、他の医療機関への紹介も行います。

費用の考え方

レカネマブ・ドナネマブはいずれも公的医療保険の対象で、ご負担は加入されている保険の自己負担割合に応じて決まります。1か月の医療費が自己負担限度額を超えた場合は、高額療養費制度の対象になることがあります。

治療には、薬剤費のほかに、治療前のアミロイドPET検査や脳脊髄液検査、投与前後のMRI検査、診察や認知機能検査などの費用もかかります。

皮下注製剤の薬価や、在宅自己投与が始められる時期は、今後の手続きによって変わりますので、最新の情報を医療機関でご確認ください。具体的な自己負担額は、年齢や所得区分、受ける検査によって異なります。

まとめ

レカネマブとドナネマブは、アルツハイマー病による軽度認知障害や軽度の認知症の進行を緩やかにすることを目的とした抗アミロイド抗体薬です。治療を受けるには、原因がアルツハイマー病であることの確認や、MRI検査などを含む決められた手順が必要で、定期的なMRI検査による副作用の確認も欠かせません。2026年9月にはレカネマブの自己投与が可能な皮下注製剤も承認され、治療の選び方が広がっています。

対象となるのは軽度の段階の方に限られるため、もの忘れが気になるときは、早めに現在の状態を評価しておくことが大切です。「これは年のせいか」「治る病気が隠れていないか」「この薬の対象になるのか」といった疑問があれば、どうぞお気軽にご相談ください。


※本コラムは、厚生労働省の「最適使用推進ガイドライン」、エーザイ株式会社、バイオジェン・ジャパン、日本イーライリリー株式会社の公開情報(2026年9月16日付のレカネマブ皮下注製剤の承認に関する発表を含む)など、2026年10月時点で公開されている情報にもとづく一般的な医療情報です。レカネマブの治療中止後の経過に関する記載は、製造販売元が学会で発表した追加解析やモデル解析にもとづく報告であり、今後の研究で見直される可能性があります。効果の現れ方や副作用の出方には個人差があり、すべての方に当てはまるものではありません。薬の対象になるかどうかは、症状や検査結果をふまえて医師が判断します。気になる症状がある場合は、自己判断せず、専門医にご相談ください。

監修・執筆

最終更新日:2026年10月18日

大原 信司(おおはら しんじ)

おおはら脳神経クリニック
院長 大原信司

福岡市うまれ、九州大学医学部卒業。

日頃の診療においては①患者様の話をしっかりと聞くこと、②診察と説明に十分に時間をかけること、の2点を心がけています。

資格
  • 日本脳神経外科学会専門医
  • 日本臨床神経生理学会専門医
  • 日本定位・機能神経外科学会技術認定医
  • 迷走神経刺激療法(VNS)資格認定医
  • 定位頭蓋内脳波(SEEG)資格認定医
  • バクロフェン髄注療法(ITB)資格認定医 など
所属学会
  • 日本脳神経外科学会
  • 日本てんかん学会
  • 日本定位・機能神経外科学会
  • 日本臨床神経生理学会 など