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「てんかん」と聞くと、子どもの病気、あるいは全身がけいれんする激しい発作をイメージする方が多いかもしれません。しかし実際には、てんかんはあらゆる年代で発症する病気であり、近年は特に高齢者での発症が増えています。また、大人のてんかんはけいれんを伴わないことも多く、「ぼーっとする」「急に記憶が飛ぶ」といった症状で現れるため、てんかんと気づかれにくい点が問題です。
このコラムでは、大人(特に中高年・高齢者)に起こるてんかんの特徴と、他の病気との見分け方についてお伝えします。
「けいれん=てんかん」ではない
てんかんとは、脳の神経細胞が突発的に異常な電気活動を起こすことで、繰り返し発作が生じる慢性的な神経疾患です。日本には約100万人(100人に1人)の患者さんがいるとされています。
てんかんの発作は、全身のけいれんだけではありません。発作の種類は、脳のどの部位が異常な活動を起こすかによって様々です。意識をなくしてその場でぼーっとする、手や口が自動的に動く(自動症)、突然言葉が出なくなる、体の一部にしびれや違和感が生じる、見えないものが見える・聞こえない音が聞こえる、といった症状もすべててんかん発作の可能性があります。
逆に、けいれんがあったとしても、それがてんかんとは限りません。高熱による熱性けいれん、低血糖、失神、心臓の不整脈、脳卒中、ストレスや心理的な要因による非てんかん性発作なども、けいれんを引き起こすことがあります。「けいれんした=てんかん」でも「けいれんしない=てんかんでない」でもなく、正確な診断には専門医による評価が必要です。
大人・高齢者のてんかんはどう違うのか
てんかんはこれまで「子どもの病気」というイメージが強くありましたが、実は発症のピークは2つあります。幼児期・小児期と、65歳以降の高齢期です。高齢化が進む日本では、高齢者のてんかんは増加傾向にあり、てんかん全体の中で大きな割合を占めるようになっています。
高齢者のてんかんの原因は、若い世代とは異なります。脳血管障害(脳梗塞・脳出血の後遺症)が30〜40%と最も多く、次いで頭部外傷、アルツハイマー型認知症、脳腫瘍などがあります。一方で、約3分の1は明らかな原因が特定できないこともあります。
発作の現れ方も、高齢者では若い世代と異なる特徴があります。全身けいれんは比較的少なく、多くは「焦点意識減損発作(複雑部分発作)」と呼ばれるタイプです。これは脳の一部から始まる発作で、意識が曇り、ぼーっとする、無反応になる、奇異な行動をとる、口をもぐもぐさせる、などの症状が現れます。発作の持続時間は数十秒〜数分程度ですが、発作後にもうろうとした状態(発作後もうろう状態)が数時間続くことがあります。
認知症と間違われやすい ― 高齢者てんかんの落とし穴
高齢者てんかんで特に問題になるのは、認知症との誤診です。ぼーっとする、急に会話がかみ合わなくなる、記憶が飛ぶ、奇異な行動をとる――こうした症状は、認知症の症状と似ているところがあり、周囲も本人も「年のせい」「認知症かもしれない」と思ってしまうことがあります。
てんかんの場合、これらの症状は「発作として起きる」という点が認知症と異なります。つまり、普段は問題ないのに突然症状が現れ、しばらくすると元に戻る、というパターンが繰り返されます。「いつもと違うエピソードが周期的に起きている」と感じる場合は、てんかんを疑う視点を持つことが重要です。
また、高齢者てんかんでは、発作とは別に「記憶の一部が失われる」という現象が起きることがあります(過去のエピソード記憶の障害)。人生の大事な出来事を思い出せない、ある期間の記憶が抜けている、といった症状で、これもてんかんが原因となっている場合があります。
中高年・働き世代のてんかん
てんかんは高齢者だけでなく、30〜50代の働き世代にも発症します。この年代では、脳腫瘍・脳血管奇形・海馬硬化などが原因となることがあるほか、明らかな原因がないまま発症することもあります。
この年代のてんかんで特に問題になるのは、自動車の運転や仕事への影響です(運転免許については別のコラムで詳しく解説します)。また、抗てんかん薬の中には妊娠への影響があるものもあるため、妊娠を希望する女性では薬の選択に特別な配慮が必要になります。
大人のてんかん ― 診断のポイント
てんかんの診断には、詳細な問診(発作の状況・前後の様子・頻度・誘因など)と、脳波検査・MRI検査が中心になります。発作の様子を本人が覚えていないことも多いため、発作を目撃した家族や周囲の方からの情報が非常に重要です。発作の様子をスマートフォンで動画撮影しておいていただけると、診断の大きな助けになります。
脳波検査では、てんかんに特徴的な波形(棘波・鋭波など)が確認されることがありますが、1回の脳波検査では異常が検出されないこともあります。また、MRI検査で脳腫瘍・脳梗塞・海馬硬化など、てんかんの原因となる病変がないかを確認します。
当院でのてんかん診療について
当院では、てんかんの診断・薬物治療に力を入れています。院長は福岡山王病院においててんかん手術を担当してきた経験があり、外科治療を含むてんかんの専門的な知識をもとに、正確な診断と適切な治療をご提案します。また、週1回(金曜日午前中)は九州大学脳神経内科のてんかん専門医による外来も行っており、より高度な専門的判断が必要な場合にもスムーズに対応できる体制をとっています。
「最近こんなエピソードがあった」「もしかしててんかんでは」「他院でてんかんと言われたがよく分からない」という方は、セカンドオピニオンも含めてお気軽にご相談ください。
※本コラムは、2026年8月時点で公開されている情報にもとづく一般的な医療情報です。実際の診断・治療は、症状やご事情を踏まえて医師が行います。気になる症状がある場合は、自己判断せず、専門医にご相談ください。
最終更新日:2026年8月16日

おおはら脳神経クリニック
院長 大原信司
福岡市うまれ、九州大学医学部卒業。
日頃の診療においては①患者様の話をしっかりと聞くこと、②診察と説明に十分に時間をかけること、の2点を心がけています。
- 日本脳神経外科学会専門医
- 日本臨床神経生理学会専門医
- 日本定位・機能神経外科学会技術認定医
- 迷走神経刺激療法(VNS)資格認定医
- 定位頭蓋内脳波(SEEG)資格認定医
- バクロフェン髄注療法(ITB)資格認定医 など
- 日本脳神経外科学会
- 日本てんかん学会
- 日本定位・機能神経外科学会
- 日本臨床神経生理学会 など



