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「目が勝手に閉じてしまう」「首が傾いて元に戻らない」「字を書こうとすると手がこわばる」――こうした症状に悩んでいるにもかかわらず、なかなか正しい診断にたどり着けず、「気のせい」「ストレスのせい」と言われてしまった経験をお持ちの方もいらっしゃるかもしれません。
これらの症状は、「ジストニア」と呼ばれる神経疾患が原因となっている可能性があります。ジストニアは、適切な診断と治療によって症状をコントロールできる病気です。このコラムでは、ジストニアとはどのような病気か、どんな種類があるか、どのような治療があるかの全体像をお伝えします。
ジストニアとはどのような病気か
ジストニアとは、脳や神経系の異常により、筋肉が意思とは関係なく収縮・緊張を繰り返し、異常な姿勢や不随意運動(自分の意思とは関係なく起きる動き)が生じる疾患群です。
筋肉が「収縮しろ」「緩め」という脳からの信号を正しく受け取れなくなり、過剰に収縮し続けてしまうことで、体が意図しない方向に引っ張られたり、けいれんが繰り返されたりします。この「過剰な筋収縮」がジストニアの本質です。
日本における患者数は正確には把握されていませんが、一般的には比較的まれな疾患とされています。ただし、認知度が低く「過小診断されている可能性がある」とも指摘されており、実際には気づかれていない患者さんが多い可能性があります。
ジストニアの種類 ― 症状が現れる部位と範囲で分類
ジストニアは、症状が現れる部位・範囲によって大きく分類されます。
局所性ジストニアは、体の特定の一部分だけに症状が限られるタイプです。最も多く、眼瞼けいれん(まぶたが閉じてしまう)、痙性斜頚(首が傾く・回旋する)、書痙(字を書くときに手がこわばる)などが代表例です。
分節性ジストニアは、隣接する2か所以上の部位に症状が現れるタイプです。眼瞼けいれんと口・あご・舌のジストニアが合わさった「メージュ症候群」がその代表例です。
全身性ジストニアは、体の広い範囲または全身に症状が及ぶタイプで、小児期に発症することが多く、成人ではやや少ないです。
ジストニアの原因 ― 一次性と二次性
ジストニアは、原因によっても分類されます。
一次性ジストニア(特発性)は、脳の構造的な異常や他の病気がなく、ジストニアそのものが病気として現れるタイプです。原因が特定できないことが多く、遺伝的な要因が関与している場合もあります。局所性ジストニアの多くはこのタイプです。
二次性ジストニアは、脳卒中・脳腫瘍・頭部外傷・薬剤の副作用・Wilson病などの別の病気が原因となって生じるタイプです。原因となる病気を治療することが、ジストニアの改善につながる場合があります。
また、特定の動作をするときにだけ症状が現れる「動作特異性ジストニア」という特徴的なタイプもあります。書痙(書字のときだけ)、音楽家クランプ(演奏するときだけ)などがこれに当たり、日常動作には支障がないのに特定の動作だけ症状が出るという点で、他の疾患と見分けにくいことがあります。
ジストニアの診断はなぜ難しいのか
ジストニアは、診断までに時間がかかることが少なくありません。いくつかの理由があります。
まず、症状が多彩で他の病気と混同されやすいことです。眼瞼けいれんはドライアイや心因性疾患と、痙性斜頚は筋緊張性頚部痛や心因性疾患と、書痙は整形外科的疾患と混同されることがあります。
次に、画像検査(MRI・CTなど)や血液検査で異常が出ないことが多い点です。一次性ジストニアでは、これらの検査で明らかな異常が見つからないため、「検査で異常がないから問題ない」と見過ごされてしまうことがあります。診断は主に、症状の特徴・経過・神経学的診察によって行われます。
また、ジストニアという病気自体の認知度が低く、専門医でなければ見逃されやすいという現状もあります。
ジストニアの治療 ― 選択肢の全体像
ジストニアの治療は、症状の種類・範囲・重症度に応じて選択されます。大きく分けて、内服薬・ボツリヌス治療・手術(定位脳手術)の3つがあります。
内服薬(抗コリン薬・クロナゼパム・バクロフェンなど)は、全身性ジストニアや、ボツリヌス治療が難しい部位のジストニアに用いられます。効果には個人差があり、副作用(口渇・眠気・認知機能への影響)にも注意が必要です。
ボツリヌス治療は、局所性ジストニアの第一選択となる治療です。異常収縮している筋肉にボツリヌス毒素を直接注射し、過剰な筋緊張をやわらげます。眼瞼けいれん・痙性斜頚に対しては保険適用で治療を受けられます。効果は3〜4か月程度続き、定期的な注射が必要です。詳しくは別のコラムで解説しています。
定位脳手術は内服薬やボツリヌス治療で十分な効果が得られない場合に検討する外科的治療で、脳深部刺激治療(DBS)や凝固術があります。DBSは脳内の特定部位(淡蒼球など)に電極を植え込み、電気刺激によって異常な神経活動を調整します。凝固術は電極を植え込む代わりに熱を加え脳を凝固破壊します。いずれも全般性ジストニアや難治性の局所性ジストニアに有効で、当院院長は九州大学病院との連携のもと、適応患者さんに対して定位脳手術を行っています。凝固術については他院にご紹介することもあります。
当院でのジストニア診療について
当院では、ジストニアの診断・治療に力を入れています。眼瞼けいれん・痙性斜頚に対してボツリヌス治療を行っています。院長はアメリカで約6年間DBSを専門的に研鑽した後、京都きづ川病院・福岡山王病院において機能神経外科手術(DBS・神経血管減圧術など)を長年担当しており、内服薬やボツリヌス治療で十分な効果が得られない場合には、手術の適応を九州大学病院と連携して検討し実際に実施する体制をとっています。
「この症状はジストニアではないか」「他院でジストニアと言われたが治療方針を相談したい」という方は、セカンドオピニオンも含めてお気軽にご相談ください。
※本コラムは、2026年9月時点で公開されている情報にもとづく一般的な医療情報です。実際の診断・治療は、症状やご事情を踏まえて医師が行います。気になる症状がある場合は、自己判断せず、専門医にご相談ください。
最終更新日:2026年9月13日

おおはら脳神経クリニック
院長 大原信司
福岡市うまれ、九州大学医学部卒業。
日頃の診療においては①患者様の話をしっかりと聞くこと、②診察と説明に十分に時間をかけること、の2点を心がけています。
- 日本脳神経外科学会専門医
- 日本臨床神経生理学会専門医
- 日本定位・機能神経外科学会技術認定医
- 迷走神経刺激療法(VNS)資格認定医
- 定位頭蓋内脳波(SEEG)資格認定医
- バクロフェン髄注療法(ITB)資格認定医 など
- 日本脳神経外科学会
- 日本てんかん学会
- 日本定位・機能神経外科学会
- 日本臨床神経生理学会 など



