
ジストニアの全体像については「ジストニアとは ― 総論」をご覧ください。
ジストニアの治療は、症状の種類・範囲・重症度によって選択肢が異なります。「どんな治療があるのか」「どの治療が自分に向いているのか」「費用はどのくらいかかるのか」――こうした疑問を持っている方に向けて、このコラムではジストニアの治療全体を整理してお伝えします。
ジストニアの治療の基本的な考え方
ジストニアの治療は、「症状が出ている部位(局所性か全身性か)」と「重症度」によって段階的に選択します。
局所性ジストニア(眼瞼けいれん・痙性斜頚など体の一部に限られるもの)では、ボツリヌス治療が第一選択です。内服薬を加えることもあります。ボツリヌス治療で十分な効果が得られない場合には、脳深部刺激療法(DBS)などの定位脳手術が検討されます。それぞれの病気については「眼瞼けいれん・メージュ症候群とは ― 目が開けにくい・まぶたが閉じてしまう症状の正体」、「痙性斜頚(頚部ジストニア)とは ― 首が傾く・顔が向いてしまう病気と治療」で解説しています。
全身性ジストニア(広い範囲に症状が及ぶもの)では、まず内服薬から始め、効果が不十分な場合にボツリヌス治療(症状の強い部位への局所投与)、さらには定位脳手術(DBSなど)を検討します。
内服薬による治療
内服薬は、全身性ジストニアや、ボツリヌス治療が難しいあるいは効果が不十分な場合の局所性ジストニアに用いられます。単独で使用することも、ボツリヌス治療と組み合わせることもあります。
抗コリン薬(トリヘキシフェニジルなど)は、ジストニアに広く用いられる内服薬です。特に若年発症の全身性ジストニアでは有効性が高いとされています。ただし、口渇・便秘・眼のかすみ・認知機能への影響(特に高齢者)などの副作用に注意が必要です。クロナゼパム(ベンゾジアゼピン系)は筋緊張をやわらげる効果があり、ジストニアに補助的に使用されます。バクロフェンは筋弛緩作用があり、ジストニアや痙縮に用いられます。
内服薬の効果には個人差があり、十分な効果が得られないことも少なくありません。副作用と効果のバランスを見ながら調整していきます。
ボツリヌス治療
ボツリヌス治療は、局所性ジストニアの第一選択となる治療です。異常収縮している筋肉にボツリヌス毒素(A型)を直接注射し、神経筋接合部に作用することで筋収縮を抑制し、過剰な筋緊張をやわらげます。
保険適用で治療できる疾患は、眼瞼けいれん・痙性斜頚(頚部ジストニア)・片側顔面けいれん・上肢痙縮・下肢痙縮・慢性流涎などで、ジストニアに関しては眼瞼けいれんおよび痙性斜頚(頚部ジストニア)が対象となります。その他のジストニアは保険適用外となります。
効果は通常3〜4か月程度持続します。効果が薄れてきたタイミングで再注射を行い、定期的に継続することで症状を安定してコントロールできるようになります。注射を繰り返しても効果が落ちてくることは少なく、長期にわたって継続できる治療です。ただし、まれに体内で抗体ができて効きにくくなることがあるため、医師が定める投与間隔を守ることが大切です。
費用の目安(3割負担の場合)は、投与量や使用する薬剤によって異なりますが、眼瞼けいれんで約5,000〜10,000円程度、痙性斜頚では約20,000〜40,000円程度が目安となります。重度障害者医療証等をお持ちの方は自己負担が軽減されます。
当院では、痙性斜頚や四肢痙縮など首・肩・四肢の深部の筋肉への注射を、エコー(超音波)ガイド下で行っています。エコーで筋肉を画像で確認しながら正確な部位に注射することで、治療効果が安定しやすく、不必要な部位への注射リスクを低減できます。通院が困難な方には、訪問によるボツリヌス治療にも対応しています。
定位脳手術(DBS・凝固術)
内服薬やボツリヌス治療で十分な効果が得られない場合に検討する外科的治療として、定位脳手術があります。定位脳手術とは、脳の中の特定の部位(淡蒼球内節・視床など)をターゲットとして、1mm単位の精度で行う手術の総称で、一般には脳深部刺激療法(DBS)と凝固術(熱凝固療法)の2種類があります。
DBSは、脳内に細い電極を植え込み、前胸部に埋め込んだ刺激装置から電気刺激を送ることで異常な神経活動を調整する治療です。脳を破壊しないため可逆性があり、刺激の強さや設定を後から調整できる点が大きな特徴です。ジストニアに対するDBSは、全身性ジストニアや難治性の局所性ジストニアに有効です。パーキンソン病と比べて効果が現れるまでに時間がかかることがあり(数週間〜数か月)、長期的に評価する必要があります。
凝固術(熱凝固療法)は、脳の特定部位に高周波電流を流して熱で凝固・破壊する手術です。1回の手術で治療を完結できること、体内に機械を埋め込む必要がないため機械の不具合やバッテリー交換の心配がないことが利点です。特に若い患者さんや、デバイス管理が難しい方に向いている場合があります。一方で組織破壊を行うため不可逆的であること、両側手術では構音障害などのリスクが高まることに注意が必要です。振戦やジストニアの改善率が高く根治的と考えられる場合に選択されます。
DBSと凝固術はどちらが優れているということではなく、患者さんの症状・年齢・生活状況・デバイス管理の可否などを総合して使い分けることが重要です。それぞれの特徴を理解したうえで適切に選択することが、患者さんの利益につながります。
適応は疾患の種類・重症度・年齢などによって判断されます。すべてのジストニアの方が対象になるわけではなく、専門医による詳細な評価が必要です。
当院院長は、アメリカで約6年間DBSを専門的に研鑽した後、京都きづ川病院・福岡山王病院において約15年間DBS・定位脳手術を担当してきました。現在も九州大学病院脳神経外科の非常勤講師としてDBSを継続して実施しています。ジストニアに対する定位脳手術(DBS・凝固術)については、九州大学病院または適切な専門施設と連携して適応を検討する体制をとっています。
どの治療が自分に向いているのか
「自分にはどの治療が向いているのか」は、症状の部位・範囲・重症度、これまでの治療歴、年齢、生活状況などを総合して専門医が判断します。
目安として、次のように考えるとよいでしょう。眼瞼けいれん・痙性斜頚などの局所性ジストニアでは、まずボツリヌス治療を試みます。ボツリヌス治療を続けても十分な効果が得られない、または広い範囲にジストニアがある場合は、内服薬の追加や定位脳手術(DBSなど)の検討を進めます。
大切なのは、「今の治療で効果が出ていない=もう方法がない」ではないということです。治療の選択肢は複数あり、組み合わせることで改善できる可能性があります。
当院でのジストニア治療について
当院では、ジストニアに対するボツリヌス治療および内服薬による治療を行っています。ボツリヌス治療や内服薬で十分な効果が得られない場合には、定位脳手術(DBS)の適応を九州大学病院と連携して検討する体制をとっています。「今の治療で改善しない」「DBSについて相談したい」という方も、どうぞお気軽にご相談ください。セカンドオピニオンも承っています。当院の診療内容は「手足のつっぱり・こわばり」のページもご覧ください。
※本コラムは、2026年10月時点で公開されている情報にもとづく一般的な医療情報です。実際の診断・治療は、症状やご事情を踏まえて医師が行います。気になる症状がある場合は、自己判断せず、専門医にご相談ください。
最終更新日:2026年10月4日

おおはら脳神経クリニック
院長 大原信司
福岡市うまれ、九州大学医学部卒業。
日頃の診療においては①患者様の話をしっかりと聞くこと、②診察と説明に十分に時間をかけること、の2点を心がけています。
- 日本脳神経外科学会専門医
- 日本臨床神経生理学会専門医
- 日本定位・機能神経外科学会技術認定医
- 迷走神経刺激療法(VNS)資格認定医
- 定位頭蓋内脳波(SEEG)資格認定医
- バクロフェン髄注療法(ITB)資格認定医 など
- 日本脳神経外科学会
- 日本てんかん学会
- 日本定位・機能神経外科学会
- 日本臨床神経生理学会 など



