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「ボツリヌス治療とは ― 適応・効果・ボトックスとゼオマインの違い」はこちら
「顔の左側(あるいは右側)がぴくぴくと動く」「最初はまぶただけだったのに、だんだん頬や口まで広がってきた」――そのような症状でお困りではないでしょうか。
これは顔面けいれん(顔面痙攣)という病気かもしれません。このコラムでは、顔面けいれんの原因・症状・他の病気との見分け方・治療法について、脳神経外科の専門医の立場から分かりやすくお伝えします。
顔面けいれんとはどのような病気か
顔面けいれんは、顔の片側(左右どちらか一方)の筋肉が、自分の意思とは関係なく収縮してぴくぴくと動く病気です。多くの場合、目の周り(眼輪筋)から始まり、やがて頬・口元・あごへと広がっていきます。両側の顔に同時に起こることはほとんどなく、片側性であることが特徴です。
発症年齢は40〜60歳代が多く、どちらかといえば女性にやや多い傾向があります。最初は疲れたときや緊張したときだけ起こる軽いまぶたのぴくつきとして始まることが多く、「単なる疲れ目だろう」と放置されることも少なくありません。しかし時間とともに症状は広がり、頻度も増えていきます。重症になると、会話中や人前で顔が大きく動くことへの恥ずかしさから外出が困難になるなど、生活の質に大きく影響します。
なぜ起こるのか ― 原因
顔面けいれんの原因の多くは、脳幹部(橋)付近で顔面神経が血管に圧迫されることです。顔面神経は顔の筋肉を動かす神経で、この神経の根元(脳幹から神経が出る部分)は特に脆弱な部分です。ここに動脈(後下小脳動脈・前下小脳動脈・椎骨動脈など)が接触・圧迫すると、神経に異常な電気信号が発生し、顔面の筋肉が勝手に収縮するようになります。
血管による圧迫が起こる背景には、加齢による動脈硬化や血管の蛇行があります。生まれつき血管の走行が神経に近い方もいます。いずれにせよ、自分でコントロールできる原因ではなく、生活習慣が直接の原因になるわけではありません。
まれに、脳腫瘍や血管奇形が顔面神経を圧迫して同様の症状を起こすこともあるため、画像検査による確認が必要です。
眼瞼けいれん・ミオキミアとの違い
顔面けいれんと症状が似た病気に、眼瞼けいれんと眼瞼ミオキミアがあります。それぞれ原因も治療も異なるため、正確な診断が重要です。
眼瞼けいれんは両側のまぶたがけいれんする病気で、顔面けいれんのように片側の顔全体が動くことはありません。また、眼瞼けいれんでは羞明(光をまぶしく感じる)や、まぶたが開けにくいという症状を伴うことが多く、顔面けいれんとは区別できます。眼瞼けいれんの原因は脳の神経回路の異常(ジストニア)であり、血管による神経圧迫ではありません。
眼瞼ミオキミアは、まぶた(主に下まぶた)の一部が細かくぴくぴくと震える状態です。疲労・睡眠不足・ストレス・カフェインのとりすぎなどがきっかけになることが多く、通常は数日〜数週間で自然に治まります。ぴくつきはまぶたにとどまり、頬や口元へ広がることはありません。一方、顔面けいれんは時間とともに頬や口元へ広がり、眼瞼と口周囲の筋肉が同期して(同時に)けいれんし、自然には治まりにくいのが特徴です。まぶたのぴくつきが長く続く場合や、範囲が広がってきた場合はご相談ください。
診断のための検査
顔面けいれんの診断は、まず問診と神経学的診察によって行います。症状の広がり方・収縮の同期性・他の症状の有無などを確認します。
画像検査としては、MRI・MRAが最も重要です。MRIでは脳腫瘍や血管奇形などの二次的な原因を除外し、MRAでは顔面神経付近の血管の走行を確認します。血管による神経圧迫の様子を高精度に描出できる特殊なMRI撮影(3D-FIESTA法など)が診断に有用です。
当院にはMRI装置はありませんが、近隣の連携施設で撮影できる体制を整えています。撮影後は当院で画像を確認し、診断・治療方針の決定を行います。
治療① ボツリヌス注射(第一選択)
顔面けいれんの治療の第一選択はボツリヌス注射です。ボツリヌス毒素をけいれんしている顔面の筋肉に直接注射することで、筋肉の過剰な収縮を抑えます。
効果は注射後数日〜2週間で現れ始め、3〜4か月程度持続します。効果が薄れてきたら再注射を行います。繰り返し注射することで長期にわたって症状をコントロールします。
顔面けいれんへのボツリヌス注射は保険適用で行えます。使用する製剤はボトックス(onabotulinumtoxinA)で、ゼオマイン(incobotulinumtoxinA)は保険適用がありません。
副作用として最も多いのは、注射した筋肉やその周囲の一時的な筋力低下です。まぶたが下がる(眼瞼下垂)、目が閉じにくくなる、涙が出やすい・目が乾く、口元が動かしにくい・口角が下がる、といった症状が現れることがあります。まれに、物が二重に見える(複視)こともあります。このほか、注射部位の痛みや内出血がみられることがあります。
これらの多くは一時的で、数週間ほどで回復します。目が閉じにくい間は、目薬などで目の乾燥を防ぐことが大切です。気になる症状が現れた場合は早めにご相談ください。次回の注射では、症状に応じて注射する部位や量を調整します。
治療② 手術(微小血管減圧術)
顔面けいれんの根本的な治療は、原因となっている血管による神経圧迫を取り除く手術です。これを微小血管減圧術(MVD:Microvascular Decompression)といいます。
手術では、全身麻酔下で耳の後ろの頭蓋骨を小さく開け、顕微鏡を使って神経を圧迫している血管を確認し、神経と血管の間にスポンジ状の素材を挟んだり、血管を移動させたりして圧迫を解除します。多くの方で症状の消失や改善が得られると報告されています。根本原因を取り除くため、薬やボツリヌス注射とは異なり、治療効果が長期にわたって持続することが期待できます。
一方で、脳神経外科手術であるため一定のリスク(顔面神経麻痺・難聴など)も伴います。ボツリヌス注射で十分にコントロールできている場合は、必ずしも手術を急ぐ必要はなく、症状の程度・患者さんのご希望・年齢や全身状態などを考慮して判断します。
微小血管減圧術は入院を要する手術であり、当院では実施しておりません。手術をご希望の方・手術の適応があると判断される方については、専門の施設へご紹介いたします。
当院での顔面けいれんの診療について
当院では、顔面けいれんの診断とボツリヌス治療を行い、手術が必要な場合は専門施設へご紹介します。MRI・MRAによる画像診断(近隣連携施設との連携)、ボツリヌス注射による継続的な症状管理、手術適応の判断と専門施設へのご紹介を行っています。
「顔がぴくぴくする」「まぶたから頬へ広がってきた」「他院でボツリヌス注射を受けていたが引き続き治療を受けたい」という方も、どうぞお気軽にご相談ください。
※本コラムは、2026年10月時点で公開されている情報にもとづく一般的な医療情報です。実際の治療の選択は、症状やご事情を踏まえて医師が判断します。気になる症状がある場合は、自己判断せず、専門医にご相談ください。
最終更新日:2026年10月25日

おおはら脳神経クリニック
院長 大原信司
福岡市うまれ、九州大学医学部卒業。
日頃の診療においては①患者様の話をしっかりと聞くこと、②診察と説明に十分に時間をかけること、の2点を心がけています。
- 日本脳神経外科学会専門医
- 日本臨床神経生理学会専門医
- 日本定位・機能神経外科学会技術認定医
- 迷走神経刺激療法(VNS)資格認定医
- 定位頭蓋内脳波(SEEG)資格認定医
- バクロフェン髄注療法(ITB)資格認定医 など
- 日本脳神経外科学会
- 日本てんかん学会
- 日本定位・機能神経外科学会
- 日本臨床神経生理学会 など



